黒森歌舞伎舞台幕の修復及び新調プロジェクト

黒森歌舞伎とは山形県酒田市黒森地区において江戸時代中期の享保年間から280年以上伝承されてきた農民歌舞伎です。「雪中芝居」の呼び名もあるように、正月公演は例年2月中旬に雪の中で上演されます。そのため舞台幕は老朽化と長年にわたる雪や風の影響とで修復あるいは新調が必要な状態になっていました。
修復・新調するには木綿に染料で同様の絵を描き染め上げる必要がありますが、道具はおろか技術のある職人もすでにおられない状況とのこと。そこで、デジタルでの修復と複製をサビアにご相談いただくことになりました。

デジタル上での修復と新調

黒森歌舞伎舞台幕の修復及び新調プロジェクト

対象の幕は「俵藤太幕」と「福助幕」の二幕です。舞台幕とあってどちらも大きく、前者が3.3m x 12m、後者も1m x 12mありました。
そこで、まずは大判でも対応可能なサビアの大型スキャナを用いてスキャン。絵柄が欠落した欠損部分についてデジタル上で加筆、汚れ落とし、着色、色調整などを行い、修復のベースとなる画像を作成しました。その画像を捺染印刷のインクジェットプリンタで木綿に出力し、穴が開くなどしていた欠損部分の裏側から印刷生地を当てて縫うことで修復が実現しています。
いっぽう新調版については、同じ修復用画像から古色を抜き、新品時の色を染色家のかたの意見を取り入れつつ慎重に再現。再度木綿に印刷したものを縫製して、舞台幕に仕立てました。

KAIGA2.5での捺染印刷

黒森歌舞伎舞台幕の修復及び新調プロジェクト

サビアでは高精細スキャナを用いた画像処理技術や印刷技術の研究・開発を日々続けております。油彩画などの凹凸再現印刷や金箔再現印刷を実現するサービス「KAIGA2.5」は様々な素材への印刷が可能ですが、本プロジェクトは捺染印刷での実例となります。
木綿捺染が可能なインクジェットプリンタを用い、色ごとの発色の特性や、生地への染み込む速さの違いを検証。紙への印刷とは異なる特質を把握すべく、試行錯誤を繰り返しました。結果として色再現性は非常に高いレベルに結実し、黒森歌舞伎の五十嵐座長からは「色鮮やかな出来で素晴らしい」とのお言葉をいただくことができました。山形県指定無形文化財の伝統芸能を次代へつなぐお手伝いができ、大変光栄に思っております。

黒森歌舞伎舞台幕の修復及び新調プロジェクト