2008年、「日本西洋建築界の父」と称されるジョサイア・コンドルの設計図面28件468枚(京都大学蔵、三菱地所設計蔵)をスキャンするプロジェクトにご協力しました。コンドルの建築図面は2006年に重要文化財指定されましたが、美術品とは異なり建築現場で使用されていたため劣化が進んでいるのが実情です。今後も日本の建築史料としての役割を担いつつ、保存環境を保護するためにはデジタル化が最適解と言えるでしょう。そのため、スキャン後の高精細デジタルデータについてはデータベースを構築し、デジタル修復のうえ複製印刷を展示するなど、より多くの人の目に触れる取り組みも行いました。
ジョサイア・コンドル(Josiah Conder)とは
1877(明治10)年に工部大学校造家学科(現在の東京大学工学部建築学科)の教授として来日した、イギリスの建築家です。辰野金吾をはじめとする日本人建築家の育成に尽力する傍ら、政府関連の建築物の設計も手掛けました。代表作としては、鹿鳴館や上野博物館、東京復活大聖堂(ニコライ堂)、三菱一号館など、明治の東京を彩った西洋建築が多数あります。その大半は東京に集中していたため、関東大震災や戦災などにより現在は失われてしまいました。しかし設計図は残されており、例えば京都大学には網町三井倶楽部や東京復活大聖堂の詳細な図面をはじめ、28件468枚の建築図面が残されています。2006年にはその価値が評価され、重要文化財に指定されました。
図面のデジタル化とデータベース構築
スキャンには、最高解像度600dpiの精細な画像を記録できる超高解像度大型平面スキャナを用いました。非接触のスキャナではありますが、照明も光量を抑えたLEDになっており、コンドルによる水彩の設計図でも退色を気にすることなく使うことができます。
細心の注意を払いつつスキャン作業を進め、得られたデジタルデータは一枚あたり数GBもの重さになりました。高精細で美しいデータではあるものの、一般的なパソコンで閲覧するのは難しいのが現実です。そこでデータベース化に取り組み、さらにはデジタル修復のうえ複製印刷を作成し、展示を行いました。文化財の高精細画像は多くの人の目に触れてこそ意義があると考え、私たちは今後もデジタルデータの新しい鑑賞方法を模索してまいります。